Vol.9 温暖化防止の環境教育 竹濱朝美 教授 社会構造から見る環境問題とは ゴミ分別は当たり前で、エコバッグを持参する人も増えました。しかし、気温上昇を危険でない水準に抑えるには、膨大な量の温室効果ガス削減が必要だといわれます。温室効果ガス削減と調和する社会づくりは、どのようにして進めればよいのでしょうか?環境社会学が専門の竹濱朝美先生に聞きました。 ドイツ南部Morbach町。元駐留アメリカ軍の弾薬保管地に設置した太陽光発電。

ヨーロッパのエネルギー政策の現状

私の専門はもともと消費者教育でしたが、温暖化対策に関する教育の必要を強く感じるようになり、ドイツの再生可能エネルギー(自然エネルギー)政策の勉強を始めました。

ドイツは自然エネルギーの発電や燃料利用を急速に拡大させ、現在では電力消費の15%にあたる量を再生可能エネルギーによって発電しています。さらに、日本の17倍もの風力発電設備、2.5倍もの太陽光発電を設置しています。再生可能エネルギーを普及させたことによって、ドイツでは、風力発電機のメーカーや太陽電池のメーカーも、世界のトップ企業に成長しました。
風力発電は、ドイツだけでなく、欧州、アメリカ、中国、インドで急激に普及しています。太陽光発電も、ドイツ、スペイン、イタリア、アメリカで飛躍的に導入されています。日本も、太陽光発電やバイオマス発電、風力発電を拡大させるために、積極的な支援政策を取る必要があります。

ドイツ、Morbach町。 元駐留アメリカ軍の弾薬保管地を活用した風力発電。▲ドイツ、Morbach町。
元駐留アメリカ軍の弾薬保管地を活用した風力発電。

ドイツで見た理想的な循環型社会モデル

ドイツの「バイオマス・エネルギー村」プロジェクトを視察しました。
ユンド村では、バイオマス地域暖房システムを導入しています。これは、木材くずをボイラーで燃やして、暖房用に熱利用するもので、村に張り巡らした温水パイプで熱を家庭に配ります。木材クズは、周囲の森から安価で入手します。村人は暖房用の石油を購入する必要がなくなり、原油価格の高騰に振り回されることがなくなりました。石油のために村から資金が流出することが減り、かつ、温室効果ガス排出も削減しました。

バイオマス発電プロジェクトでは、牛の糞、トウモロコシの茎、牧草からメタンガスを発生させ、発電します。村人は、発電した電気を送電会社に販売することで、高い売電収入を得ます。バイオマス発電システムに牧草やトウモロコシのカスを販売することで、農家の収入も増えました。他の地域でも、牛小屋の屋根に太陽光発電システムを設置し、電気を電力会社に販売することで、農家は収入を得ています。

ドイツでは、風力発電や太陽光発電、バイオマス発電の電力は、送電会社に20年間、高い価格で販売することができます。バイオマス熱利用には、補助金と低利融資が利用できます。こうした支援策によって、ドイツでは、再生可能エネルギーの導入は、大きな経済効果を生み出しています。

ドイツ中部のユンド村のバイオマス・エネルギー自給村プロジェクト。集会所の屋根に設置した太陽光発電。▲ドイツ中部のユンド村のバイオマス・エネルギー自給村プロジェクト。集会所の屋根に設置した太陽光発電。

CO2排出量から見た日本の現状

欧州と比較して、日本の温暖化防止に対する取り組みは遅れています。まず、石炭や石油に依存した発電の基本構造を変えなければ、日本のCO2排出量を大量に減らすことはできません。
発電に伴うCO2排出量を発電所側で測定すると、日本のCO2排出量の約34%は発電所から出ています。これは、発電所で石炭や石油を燃焼させるからです。また、日本のCO2排出量の約28%は製造業で発生しています。
これに対して、家庭から直接出るCO2はわずか約5%です。一般消費者にできる省エネには限界があります。このように、より大きな社会構造の視点からCO2の削減を捉えることが必要で、政策について考えることが欠かせないと思います。

もちろん、消費者の側にも、住宅に断熱材や二重ガラスを採用する、太陽光発電を設置するなど、住宅の省エネ改善には省エネ化のために、すべきことが多くあります。

ドイツ南部Morbach町。 羊畜糞と牧草によるバイオマス発電。弾薬保管地跡地。▲ドイツ南部Morbach町。
羊畜糞と牧草によるバイオマス発電。弾薬保管地跡地。

環境教育の必要性

国の政策をCO2削減にシフトさせることと同時に、国民一人ひとりの行動レベルを上げることが不可欠です。この点で環境教育が大切です。

イギリス、ドイツなど、ヨーロッパでは、温暖化に関する科学ニュースが、新聞紙面の第一面に大きなスペースを割いて報道されます。専門教育を受けたサイエンス特派員が、科学論文の最新情報をわかりやすく解説しています。科学ニュースが市民の温暖化知識を引き上げるうえで、大きな力を発揮しています。日本も、温暖化に関する科学ジャーナリズムを重視する必要があります。

私の講義を聞いて、学生が意識を変えてくれることは、大きな喜びです。銀行に就職を希望していた学生は、再生可能エネルギーに関連する金融商品や融資商品の開発に関心を持ってくれたり、英語の得意な学生が、イギリスのエコスクールに参加するようになっています。
産業社会学部での学びを通して、自分の生活を振り返り、温室効果ガス削減対策を考える学生が増えてくれることを期待しています。

ドイツ、ブロイベルグ村の太陽光発電。太陽光追尾式。手前の茶色の固まりは、バイオマス熱利用地域暖房システムの燃料用木質チップ。▲ドイツ、ブロイベルグ村の太陽光発電。太陽光追尾式。手前の茶色の固まりは、バイオマス熱利用地域暖房システムの燃料用木質チップ。

受験生へ一言!
CO2排出の少ない社会の建設に向けて、再生可能エネルギーの普及と排出削減政策は重要なテーマです。排出削減対策は、家庭における太陽光発電や太陽熱利用の普及政策、グリーン電力価値、高断熱性能のエコ住宅の普及、ゴミ削減対策、再生可能エネルギーによる地域活性化、バイオマス・エネルギー活用による農業の発展、低炭素技術に関する環境産業の成長など、幅広い分野に関連します。産業社会学部では、環境問題、低炭素社会づくりの対策を幅広い分野の相互関連から、学ぶことができます。

略歴竹濱 朝美 立命館大学 教授

研究概要 温室効果ガス排出削減対策としての太陽光発電の普及政策、気候保全に関する環境教育、環境ライフスタイル、グリーンコンシューマーの研究
著書、論文 「地球温暖化の影響と家庭部門における二酸化炭素削減策」.呉世煌,西村多嘉子編,『消費経済学体系・3・消費者問題』,慶應義塾大学出版会.第9章所収,2005年.
担当科目 環境ライフスタイル論、環境教育論
社会活動 温室効果ガス削減対策に関する各種の市民活動

竹濱朝美 教授

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